かにのにかブログ

日々のモノローグ置き場。

まっくろくろすけ

黒のジャケット、黒のかばん、歩幅を狭める黒のタイトスカート、ずっと爪先立ちで背伸びしている黒のパンプス。そんな就活生ルックで電車から降りるとき、電車とホームの間の黒い溝が存在感を増す。

まるでじわじわと黒が大きくなって、吸い込まれていなくなってしまいそうな。

いつもは気にせずひょいと踏み越えるその隙間に普段は感じない恐怖を味わう。

 

就活というのは、わたしにとっては「就活生」というごわごわしていて肌触りの悪い、全身を覆うまっくろくろすけを纏うことだった。必要以上に気張らなければならない行事であった。

クラスメイトが発した「就活生のコスプレ」というワードは端的にそれをよく表しているのに、なんだか楽しげなお祭り感があって、それでいて本物でもないという皮肉も孕んでいて、よくわたしを助けた。

 

望まない制服を着るのは久しぶりのことで、中学生の頃はよく平気でいたものだと思う。大きくなるから、と勧められたスカスカの制服は、結局卒業までずっとわたしの身に沿うことはなく、いつまでも借着のような気がしていた。

 

儲ける者がいなくならない限り、この滑稽なならわしは続いていくのだろう。安っぽい寸胴の布切れが急に、ちぐはぐにパッチワークされた紙幣に見えてくる。