魔女になりたい
人参が嫌いだと人に言えず、我慢して野菜はなんでも食べられる良い子をやっていた頃、わたしは魔女になりたかった。
真っ黒のくるぶしを覆い隠すワンピースに、先が尖ってくるくるっとなったブーツを履き、中に猫でも隠せそうなとんがり帽子をかぶって片手には箒。パートナーは黒猫。
人語を話すことは求めません。猫語のマスターは、試みてみましょう。猫は猫人は人。お互いそのままでよろしい。互いの存在を思いやることが出来ればそれで。夜は身を寄せ合って眠りたいと思うけれど、お互いにそうじゃない日もあるでしょうから、人は人の方法で、猫は猫の方法で毎晩伝えることとしよう。
なぜ魔女になりたかったのかは、あまり覚えていない。箒で空を飛びたかったことは今も覚えているし、なんなら今も飛びたい。空を生身で飛ぶ夢は、今でもよく見る。
「魔女図鑑」「魔女のなりかた」「メリーポピンズ」「魔女の宅急便」「ハリーポッター」とかとか、読み耽った。本気でホグワーツに通いたかったのに、手紙はとうとう来なかった。
人参は嫌いだから食べたくないし、焼きそばにピーマンを入れるのもやめて欲しいと主張できるようになった今でも、わたしは変わらず魔女になりたい。
薬草てんこ盛りの怪しい色したスープをかき混ぜたいし、ラジオを聴きながら空を飛びたいし、見えないところでも頑張っている人に素敵な魔法をかけたいし、人の心を持たない王子様には口から出る言葉が全て優しい言葉になる呪いをかけたい。
そして、人参とピーマンは酸味の強いリンゴ味に変えることにする。コトコト弱火で甘く煮て、人参パイとピーマンパイを一年中食べるのだ。