日本舞踊の愉しみ
先日は久し振りに、日本舞踊を踊って来ました。
錆びついている身体にはなだめすかして言うことを聞いてもらいました。
夜にはじんじんと熱を持ってわたしを苛んできます。
日本舞踊の魅力は、と問われたら、様々にある魅力の中から
「私でないものになれること」と答えます。
そういう意味では、演劇の持つ愉悦に近いのかもしれません。
日本舞踊は、多くの場合、台詞なし。
己の身体一つで、親の敵討ちに向かう男、身体を売って生計を立てる元官女、田舎者の大道芸人、遊女見習いの少女、ねずみ……様々なものに変化します。
日常生活にはない日本舞踊の文法に縛られて、己でないものになることは思いのほか気持ちが良いものです。
わたしでない何者かになることに快感を得ているわたしは、実はしょっちゅうわたしを脱ぎ捨てたいのかもしれません。